「水を自由に手に入れられるか」という課題は、人命にも直結する重要な課題です。

蛇口を捻ればいつでも水を使うことができる日本でも、災害や事故などが発生した際、水道の復旧に時間がかかり、大変な思いをしたという話はニュースにもなっています。
そこで、地震や台風などの自然災害に見舞われた際、被災状況からいち早く復旧するため、この記事を参考にして、「水道のBCP」を作成し、断水に備えましょう。

1.BCPとは

BCP(Business Continuity Plan)とは、「事業継続計画」の略称であり、「トラブルや不測の事態が起こった際に、どのように復旧させ、日常の業務に戻すのか」を計画としてまとめたもののことをを指します。

工場などの製造業や病院などのサービス業では、万が一トラブルが発生したとしても業務が完全にストップしてしまわないように、普段から許容限界が設けられています。しかし、この許容限界を超えた際にはどうすれば良いのかという行動指針の計画ともいえるでしょう。

この計画を立てているか否かで、許容限界を超えたトラブルに対する”初動の質”が変わってきます。初動の質を高めるために、そしていち早く被災状況から立ち直り通常業務を遂行させられるようになるためにも、BCPの作成に注力してみてください。

2.水道のBCPはなぜ必要なのか

水道のBCPが適切に機能すると、大きなトラブルが発生した際に、断水が発生しにくくなります。また、仮に断水しても断水箇所を少なく抑え、災害発生からの復旧時間を早める効果が期待できます。
つまり、大きな震災があった場合でも、どのような行動をとったら良いのが予めまとまっているため、すぐに復旧作業に入ることが出来るのです。

また、従業員の視点からしても、災害時は不安な思いや混乱していることも多いですし、平常心で業務にあたることは難しいものです。だからこそ、今までの慣れた業務環境をいち早く整え、優先順位やその人の役割を明確にしておくこと(災害時の業務の見える化)で、多少は心に余裕をもって行動することができるのではないでしょうか。

BCPの作成は、国からも推奨されており、内閣府からは「事業継続ガイドライン」、経済産業省からは「事業継続計画策定ガイドライン」、国土交通省からは「下水道BCP策定マニュアル」といったように、多くの情報が公開されています。

参考元:
内閣府 防災情報のページ http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/index.html

事業継続能力(BCP/BCM)(METI/経済産業省) https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/bcp/index.html

国土交通省 下水道BCP策定マニュアル改訂検討委員会 http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000515.html

3.工場の災害対応事例

では、具体的に災害が発生した際に、どのようなトラブルが起こることがあるのでしょうか。
中小企業省が公表しているBCPの有無による緊急時対応シナリオ例より引用します。

BCP導入なし企業BCP導入済み企業
想定●自動車用部品等のプレスメーカー(従業員30名)。
●平日早朝、大規模地震が突発発生、県内の広い範囲で震度6強を観測。
当日●工場では全てのプレス機が転倒。
●ほとんどの従業員の安否確認ができず。
●納品先に連絡するが電話が通じず、その後、後片付けに追われ納品先に連絡せず。
●工場ではアンカーを打っていたためプレス機の転倒は免れる。
●伝言ダイヤル171で大半の従業員の安否確認ができる、伝言のない者については近所に住む従業員に自宅まで様子を見に行かせる。
●納品先に連絡するが電話が通じないため、最寄りの営業所まで従業員1人をバイクで事情説明に行かせる。
数日間●従業員は家族の被災や地域活動のため半数が1ヶ月間、出社せず。
●原材料の仕入元会社の工場が全壊、代替調達の目処が立たず。
●1週間後、納品先の大企業から発注を他会社に切り替えたとの連絡あり。
●従業員に対して日頃、耐震診断済みのアパートに住むよう指導していたので家族の被災を免れる。
●大半の従業員が、3日間は地域活動に専念、その後1ヶ月間は2/3が出社するよう交代制をとる。
●中核事業である自動車用部品の生産復旧に最優先で取り組む。
●原材料の仕入元会社の工場が全壊するが、予め話をつけていた会社から当面の代替調達を行う。
●プレス機械調整のため、協定どおりメーカーから技術者受け入れ。
●3日後、納品先の大企業に、目論見通り1ヶ月で全面復旧可能と報告。
●この間、納品先の要請で、他会社(金型が互換できるようプレス機の種類を予め統一)での代替生産のために従業員を派遣。
数ヶ
月間
●3ヵ月後、生産設備は復旧するも、受注は戻らず。
●プレス機械の更新のため金融機関から融資を受ける。
●会社の規模を縮小、従業員の7割を解雇。
●手持ち資金により、従業員の月給、仕入品の支払いを行う。
●同業組合から、復旧要員の応援を得る。
●1ヵ月後、全面復旧し、受注も元に戻る。
●損壊した一部プレス機械の更新は地震保険でカバー。
●震災後、納品先の信用を得て、受注が拡大。

引用:中小企業省  中小企業BCP策定運用指針  緊急時対応シナリオ例   製造業(地震)

このように、BCPを策定しているかしていないかで、災害直後の判断や行動から、その後の立て直し、復旧後の取引に至るまで影響に違いが出てくるのです。

4.BCP作成で大切なポイント

それではBCP作成の際に大切なポイントについてまとめていきます。抑えておきたいポイントは、3点です。

A 目標復旧時間の作成

災害が起こると、工場の稼働率は大きく下がるため、生産量も大幅に落ち込むことが予想されます。

そこで、「顧客離れが起きない時間」から逆算して、目標復旧時間を設定しましょう。この時に、生産力を100%にまで回復することを前提とするのは危険です。むしろ、80%程度といった形で、バッファを設定しておくことが推奨されています。

B 業務フローとボトルネックの洗い出し

工場の業務フローの分析が不完全である場合、目標復旧時間の達成に向けて、どの部分を重点的にフォローアップすればいいのか迷ってしまうことになります。

そこで、「どの部分にダメージがあると目標復旧時間内での復旧が難しくなるのか」「代替策やバッファはどのくらいあるのか」といったことを、正確に割り出すために業務フローを細かく分析する必要があるでしょう。

この時に、どの経営資源を使っている業務フローであるのかが明確になっていると、計画が立てやすいです。
例えば、水やガス、電気、あるいは従業員の数を把握していることは、重要なポイントとなります。このポイントを明確にしてあると、「ここでは水が欠かせないから断水したら貯水タンクの水を利用する」「停電するとシステムに重大な損傷を与える恐れがあるため、停電時には自家発電に切り替える」など、より具体的な対策を考えやすくなります。

C 経営資源の代替策

「災害発生」という緊急時においては、平常時の生産活動の生産量と比較して、取引先や仕入れ先の被災により、十分な経営資源が得られないことも予想できます。
そのため、代替策を設定しておくで、より安心して生産活動を遂行することができるでしょう。

また、災害発生時の対応策も含めたマニュアル化や、対策設備の導入などが必要となる可能性もあります。予算との兼ね合いになってきますが、対策の実施時期を決めることが必要です。

5.水道のBCPの作成方法

BCPを作成する際に重要なことは、「作っただけでは意味がない」ということです。

PDCAサイクルを駆使して計画をブラッシュアップする、災害想定時の訓練などにBCPを反映させる、業務マニュアルとして全従業員に周知させるなどのやり方を通じて、BCPを実際に使えるものとして準備しておく必要があるでしょう。

なお、水のBCP対策として、具体的には以下の対策が挙げられます。
1.受水槽の設置
2.第二水源(地下水、工業用水の有効活用など)の確保

災害時は、飲料水の確保よりも、実は生活用水の確保の方が困難であるとも言われています。大量の水を生活用水としてペットボトルなどで備蓄しておくのは、保管スペースやそれを運ぶ労力のことも考えると、たしかに無理がありますね。
そこで、受水槽を設置したり、井戸を掘削して地下水を第二水源として利用できるようにしたりして、断水に備えることが重要なのです。
断水対策の実例は、下記の物件もご参照ください。

「人命や従業員の安全の観点」「事業継続の観点」「顧客や地域社会に対しての観点」などの観点をうまく組み合わせて、実行可能な計画を作り上げることが、最終的に工場の復旧を助ける計画となることは間違いありません。

水を中心としたコストダウンと省力化と防災対策

まとめ

BCPは、国や地方自治体なども作成を推奨います。災害大国である日本では、今後ますますその重要性を感じることが増えるでしょう。

特に、水道の復旧は、電機やガスに比べると時間がかかる傾向にあるため、断水に備える水道のBCPを考えておくことで、生産やサービスの早期復旧が可能となります。
ぜひ、この機会に、BCPの作成を進めてみてくださいね。

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