大災害が発生した際、ビジネスにおいては防災や備蓄だけでは十分でないことを、ご存知ですか?
災害時の対応策、復旧策をまとめたものをBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)といいますが、現在内閣府日本商工会議所などでもPRされているように、
「工場がある地域が被災したら」「台風で危機が水没したら」「従業員が被災して通常勤務が困難になったら」など、ある程度被災時の具体的シーンを想定して、その対策をまとめておき、周知させることが推進されています。

例えば医療機関では、被災時には通常よりも多くの患者が診察を求めて訪れるため、対応に追われることになります。そのような緊急事態に、より具体的な対策や計画を立てておくことは、現場を混乱させないだけでなく、復旧にかかる時間にも大きな影響を与えます。このBCPを積極的かつ具体的にこの計画を作成することにより、今までの業務フローを見直すとともに、復旧のためのボトルネックを探し、経営資源の効率化や見直しにも役に立てることができるのです。

今回は、災害の際のトラブルとして特に「水に関するトラブル」について考えていきます。

果たして、どのような対策を行うことで、現場の混乱を最小限に防ぐことが出来るのでしょうか。

水の重要性と危険性

地震などの大災害が発生した際、被災地で特に困窮することは、「安全な水の確保」です。

水は、人間が生きていく上で欠かせません。「洗う」「流す」といった衛生環境に影響を与えるだけでなく、「飲む」「食べる」という生命の維持にも直結する重要なものです。

一般的に、成人男性が1日で摂取している水の量は平均2~3リットルと言われていますが、生活用水を含めると平均で250リットルを1日で消費していると言われています。このように生活に欠かせない「水」ですが、もし仮に十分な水を利用できないとなったら、どのような影響が出るのでしょうか。最もイメージしやすいのは、脱水症状です。

1日でも水分を全く摂取しないという日があると、人は簡単に生命の危機に陥ります。また、高齢者など体力のない人は、エコノミークラス症候群を発症する危険もあるでしょう。こうした症状は、素早い行動や冷静な判断を阻害し、その結果二災害や三次災害への対応が出来なくなる可能性も否定できません。

また他にも、現代日本では体臭やトイレなどの「臭い」の問題があります。特に臭いというものは、自分が心地よいと感じるもの以外は、自分のテリトリーや生活空間を乱されていると感じてしまうため、大きなストレスとなります。被災地の避難所生活などで生活に制限を余儀なくされているところに、悪臭という問題が重なり、大きなトラブルとなっていることも少なくないのです。

災害時の上下水道の状況

では、大地震などの災害が発生した際、上下水道はどのような影響を受けるのでしょうか。

全国各地で水道管の老朽化が報じられていますが、水道管の老朽化が進んで最も怖いのは、水道管の破裂です。実は、災害時には水道管の破裂による断水が多く起こります。
昨年発生した大阪北部地震の際の断水も、老朽化した水道管の破裂が原因でした。

大阪北部地震の大規模断水、老朽水道管が引き金

大阪府北部で最大震度6弱を観測した地震では、大阪府高槻市、箕面市などで約9万戸が一時断水に追い込まれた。引き金となったのが40年の耐用年数を10年以上超える水道管の破裂だった。府では設置から40年超の水道管が約3割を占め、財政難などを理由に更新が十分に進んでいるとはいえないのが現状。南海トラフ地震なども懸念される中、自治体側は改めて対策の強化を迫られた形だ。

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32166090T20C18A6AC8Z00/

また、2011年3月に発生した東日本大震災では、宮城県(90万6,100戸)茨城県(99万5,200戸)福島県(65万4,800戸)の3県で、特に断水被害が大きく、断水率は60%を超えました。茨城県に至っては、80.5%にも上っています。また、宮城県や岩手県では、復旧困難として上下水道の復旧をあきらめた世帯がなんと2万戸を超えており、これだけでもとてつもない災害であったことが想像に難くありません。また、東日本大震災は、本震が発生した3月11日以降も、強い余震が発生し二次被害、三次被害が発生していました。特に4月の7日・11日・12日はとても強い余震が発生し、断水が解消したにもかかわらず再び断水してしまった家は、3日間を合わせて約38万戸に上っています。

(数値は厚生労働省の公式データを採用:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002qek5-att/2r9852000002qep4.pdf

震災後、断水のあった被災地には、水を運ぶ車である応急給水車が数多く出動し、支援を行いました。3月11日に地震が発生し、この応急給水車が必要なくなるまでの期間は約5か月も要したとのことです。150日以上連続稼働を続けていた計算になります。このように、未曽有の災害が起こった際には、もし計画や対策もなく行き当たりばったりとなってしまうと、最悪150日以上も、工場や病院などの運営に支障をきたすと言い換えてもいいでしょう。応急処置が済み、ある程度機能が回復するのは、地震が発生してから2週間ほどと言われていますが、万が一に備え、予備・貯蓄を確保していることは、現場の早期復旧に大きく影響します。

災害時の水の対策

それでは、災害時の水についての対策について考えていきましょう。ポイントは、節水・貯水・地下水の3つです。

節水方法

まずは、水の節約について考えてみましょう。

災害時、仮に蛇口から水が出るとしても、いつもよりも勢いが弱くなりことがあります。水を自由に使えていたことを考えると、大きな問題です。BCPを作るにあたり水の節約という点を考慮して、業務フローを見渡し、どこの業務フローがボトルネックとなっているのか考えてみてください。このボトルネックの業務に対しては、やはり水を使う業務であれば、闇雲に水の使用量を抑えるわけにはいきません。

一方で、その他の重要度の低い業務については、できる限り水の使用を少なくするといった工夫が必要です。
もしくは、思い切って「停止させる業務(ライン、機器、システムなど)」と「稼働を続ける業務(ライン、機器、システムなど)」を明確にしておくことも、BCPを作成する上では重要です。

貯水方法

機器の洗浄や食品製造など、日頃より水を多く使う業務に従事している人たちにとって、自由に水が使えないというのはまさにストレスフルな状況でしょう。そこで、普段から貯水しておくという方法があります。

貯水槽の整備などがこれに当たるでしょう。この際に注意しておくべきことが2点あります。

1つ目が、貯水槽に十分な災害対策(耐久性など)がなされているかどうかです。災害時に利用するものなので、災害時に使えなくなってしまうと意味がありません。
また、貯水槽にヒビがはいっていないかなど、普段からのメンテナンスも重要です。

もう1つは、どのくらい水を貯蔵しておくのかという貯水量です。BCPでは、顧客や患者はどのくらいなら業務停止を供してもらえるのか(顧客離れが起きないか)のタイムリミットの設定が重要なのですが、このタイムリミットのことを「目標復旧時間」といいます。貯水量の目安は、この「目標復旧時間」に適した貯水槽を利用してみてください。

地下水の利用方法

貯水と似た考え方になりますが、地下水を利用するというものがあります。

地下水は、井戸を掘削して給水しますが、「井戸は地震の揺れ強い」という特長を持っています。東日本大震災が発生した際も、断水が相次ぐ中、98.8%の井戸が地震発生後も稼働していたことが分かっています。

(参照:社団法人 全国さく井協会|https://www.sakusei.or.jp/ido_report.pdf

また、河川や海水と異なり地下水は地中に点在しているため、ある程度場所を問わず水源として利用することができます。
もちろん地質や水質、その土地の規制などのより地下水利用が制限されていることもあるので、事前の水源調査は必須です。

さらに、地下水は上水道に比べて安価です。断水対策としてだけでなく、日常的に地下水を利用することによって、水道料金のコスト削減も期待できます。

水を中心としたコストダウンと省力化と防災対策

まとめ

災害被害が相次ぐ昨今、各家庭での防災準備や対策の認知度は高まっているように肌で感じますが、ビジネスレベルとなると、具体性がなかったり実行するのに現実的でなかったり、まだまだ浸透していないように思います。

特に、水道の復旧は電気やガスよりも時間がかかり、特に生活用水の確保は非常に困難であると言われています。節水、貯水、第二水源の確保など、ぜひ、水についてのBCPを作成し、災害や突然のトラブルに強い経営体制を作り上げてみてください。

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