排水処理の業界では、ふっ素(フッ素)は対応が難しい物質の一つとして知られています。
排水基準が厳しいことはもちろんですが、それ以上に厄介なのは、比較的身近な物質でありながら、処理コストが高くなりやすいことです。

工場の担当者の中には、
「あと数mg/Lが下がらない」
「設備を入れたのに基準を超えてしまう」
と悩んだ経験がある方も多いのではないでしょうか。

今回は、ふっ素(フッ素)排水処理の課題と解決策について考えてみたいと思います。

ふっ素(フッ素)は身近な物質でもある

「ふっ素(フッ素)」と聞くと、歯磨き粉を思い浮かべる方も多いと思います。

実際にふっ素(フッ素)は適切な濃度であれば虫歯予防に効果があることが知られており、
海外では水道水へフッ素を添加する「フロリデーション」が行われている地域もあります。

しかし一方で、高濃度になると人体や生態系へ悪影響を及ぼすことがあります。
過剰摂取によって歯の変色や骨への影響が報告されており、そのため排水中のふっ素(フッ素)についても規制が設けられています。
つまりふっ素(フッ素)は、
「少量なら有益なこともあるが、多すぎれば有害になる」
という少し特殊な性質を持つ物質なのです。

(参考)厚生労働省 e-ヘルスネット
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-010

ふっ素(フッ素)は様々な業界の排水に含まれている

ふっ素(フッ素)を含む排水は、半導体や電子部品、ガラス加工、金属表面処理など、多くの産業で発生します。
近年では電子部品や半導体関連産業の拡大に伴い、ふっ素(フッ素)排水への対応を求められる事業者も増えています。

また、工場排水だけの話ではありません。
温泉地では地下水や温泉水そのものにふっ素(フッ素)が含まれていることがあります。
つまり事業者が意図的にふっ素(フッ素)を使用していなくても、排水基準への対応が必要になるケースがあるのです。

なぜ8mg/Lの基準達成が難しいのか

現在、ふっ素(フッ素)の排水基準は海域以外への排出について8mg/L以下とされています。

以前は15mg/Lでしたが、2001年の法改正によって基準が強化されました。
一見するとわずかな違いに見えるかもしれませんが、この差は現場にとって非常に大きな意味を持ちます。
例えば15mg/Lであれば対応できていた設備でも、8mg/L以下を安定して維持するためには追加対策が必要になるケースがあります。
特に古い工場では、設備の更新や増設が必要になることも珍しくありません。

従来処理だけでは対応できないこともある

ふっ素(フッ素)は水に溶けやすい性質があります。
そのため、SS(浮遊物質)や油分のように単純な沈殿処理では十分に除去できない場合があります。
一般的なふっ素(フッ素)処理では、カルシウム薬剤を用いてフッ化カルシウムとして沈殿させる凝集沈殿法が用いられます。

しかし排水の条件によっては、この方法だけでは基準を満足できないことがあります。
その場合は、

  • 吸着処理
  • イオン交換処理
  • 膜処理

などの高度処理を組み合わせる必要があります。
当然ながら、設備費やランニングコストは高くなります。

暫定排水基準が設けられている理由

そこで設けられているのが「暫定排水基準」です。これは規制を緩める制度ではありません。

技術的・経済的に直ちに対応することが困難な業種について、一定期間の猶予を設けながら改善を進めるための制度です。
もし全ての事業者に一律で厳しい基準を強制した場合、多額の設備投資に耐えられない企業も出てきます。
環境保全は重要ですが、事業そのものが継続できなくなってしまっては本末転倒です。

そのため行政も、「どうすれば現実的に基準達成へ近づけるか」という視点で事業者と向き合っています。
暫定基準は、事業者を優遇する制度ではなく、環境と産業活動を両立させるための現実的な仕組みと言えるでしょう。

(参考)神奈川県 ほう素(ほう素)・ふっ素(フッ素)等に係る排水規制
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/suisitu/kisei/houso2.html

ふっ素(フッ素)処理で本当に重要なこと

ふっ素(フッ素)処理でよくある誤解があります。

それは、「高性能な装置を入れれば解決する」という考え方です。
もちろん設備は重要です。
しかし実際には、それ以上に原水の性質が重要になります。
同じふっ素(フッ素)濃度であっても、

  • pH
  • カルシウム濃度
  • 共存する金属成分
  • 排水量

などによって処理効率は大きく変わります。

ある工場では問題なく処理できる方法が、別の工場では全く機能しないこともあります。
だからこそ、
「どの装置が良いか」ではなく、
「自社の排水に何が最適か」
という視点で考えることが重要なのです。

処理コストは水質で決まる

排水処理設備を検討する際、多くの方は設備価格に目が向きます。

しかし実際には、設備価格だけでは判断できません。
薬品使用量や汚泥発生量、メンテナンス頻度など、運転コストの方が長期的には大きな負担になることもあります。
そしてそのコストを決めるのは、設備そのものではなく排水の性質です。

だからこそ、十分な水質分析と処理試験が重要になります。

専門会社のノウハウが結果を左右する

どの水処理にも共通しますが、排水処理は設備だけで決まるものではありません。
運転管理や薬品選定、原水変動への対応など、現場ごとのノウハウが大きく影響します。
特にふっ素(フッ素)処理は、水質条件による影響が大きく、水処理会社によって得意不得意が分かれやすい分野でもあります。
そのため、ふっ素(フッ素)や重金属処理の実績が豊富な専門会社へ相談することが重要です。

設備選定だけではなく、

  • 本当に高度処理が必要なのか
  • 薬品条件の最適化で改善できないか
  • ランニングコストを下げられないか

といった視点で検討することで、より現実的な解決策が見えてきます。

(参考)増澤技研 ふっ素(フッ素)排水7技術
https://note.com/mizukara_co_jp/n/n25ea6ae43c48

暫定基準のうちに検討を始めたい

暫定基準の適用を受けている事業者の中には、
「まだ猶予期間があるから大丈夫」
と考えていらっしゃる場合もあるかもしれません。

しかし設備更新は、思っている以上に時間がかかります。
現状調査から処理試験、設計、設備導入までを考えると、数か月から1年以上かかることも珍しくありません。
また、設備が老朽化してから慌てて更新しようとしても、十分な検討時間が取れず、
結果として余計なコストが発生することもあります。

ふっ素(フッ素)排水処理は、排水処理の中でも特に難易度の高い分野です。
だからこそ問題が大きくなってから対応するのではなく、余裕のあるうちから専門家と一緒に最適な方法を検討しておくことが重要です。
将来の基準強化や設備更新を見据えた準備が、結果的には最もコストを抑え、安定した事業運営につながるのではないでしょうか。

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