1. 冷却塔運用で無視できない“蒸発損失”

ビルや工場、病院などの大規模施設において、冷却塔は空調や生産設備の安定稼働を支える不可欠なインフラです。冷却塔の仕組みは単純で、循環水を外気と接触させ、蒸発による気化熱を利用して冷却するというもの。ところが、このプロセスで必然的に発生するのが「蒸発損失(気化ロス)」です。
従来、蒸発損失は“避けられないもの”として扱われることも多くありました。ブローや飛散による損失と違い、蒸発は冷却の原理そのものであり、節水の対象外とされてきたのです。
しかし、気候変動や水の利用制約を背景に、企業における水の利用を可視化し、適切に説明することが求められています。これまで“不可避”とされてきた蒸発損失についても、その扱いを改めて考える段階に来ています。

2. 冷却塔の仕組みと蒸発損失の発生メカニズム

冷却塔は循環水を散布し、外気と接触させて一部の水を蒸発させることで冷却を実現するという仕組みですが、
このときに蒸発した分が「蒸発損失」となります。

損失の量は運転条件によって変動し、以下の要因が影響します。

主な要因説明
設計要因充填材の形状・性能、塔の構造蒸発効率や冷却性能に影響する設計上の要素
運転要因循環水量、風量、水温差運転条件によって蒸発量が変動する要素
気象条件外気温、湿度季節や天候により蒸発損失の量が左右される

一般的には循環水の1〜2%が蒸発損失となるとされていますが、大規模な冷却塔では月間で数百トン単位の水が失われているケースも珍しくありません。

3. なぜこれまで“節水対象外”とされてきたのか

冷却塔の水損失には大きく分けて3種類あります。

内容特徴・備考
1.蒸発損失(気化ロス)冷却原理に伴う不可避な蒸発冷却の仕組みそのもので、ゼロにはできない
2.ブロー排水濃縮によるスケール・腐食防止のための排水管理や制御により削減の余地あり
3.飛散損失水滴の飛散による物理的損失飛散防止装置や設計改良で抑制可能

このうち、ブローや飛散は制御や設備改良で削減が可能ですが、蒸発損失は「冷却そのものに不可欠な現象」であるため、節水施策の対象外とされてきました。結果として、省エネやブロー削減には投資が行われても、蒸発損失の発生は”仕方のないもの”と見なされてきたのです。

しかし、ESG経営やサステナビリティ投資の流れの中では「不可避だから考えなくてよい」という姿勢は通用しなくなりつつあります。企業がどの程度の水を大気中に放出しているのかを開示することが、国際的な枠組みでも求められ始めています。

4. 蒸発損失の削減の可能性とアプローチ

「ゼロにはできない」蒸発損失ですが、削減余地は確実に存在します。

  • 設計面の工夫
     充填材の種類や配置、風量制御などにより、蒸発効率を高めつつ必要以上の水損失を防ぐことができます。最新の高効率冷却塔では、同じ冷却効果を維持しながら10〜15%の蒸発量削減を達成する事例も出ています。
  • 運転管理の最適化
     冷却水の循環量やブロー制御を見直すことで、間接的に蒸発損失を抑制することが可能です。特に水処理薬品との組み合わせによる適正管理が有効です。
  • 新技術の活用
     膜技術を応用した再凝縮システムや、廃熱回収と組み合わせた冷却方式など、研究段階ではあるものの「蒸発した水を再び回収する」技術も登場しています。

5. 見える化の重要性:定量評価と指標づくり

最も重要なのは、蒸発損失の数値を「見える化」することです。
例えば以下のような手法が挙げられます。

  • 蒸発損失量の推計式(水量・温度差・外気条件を基に算出)
    – 「水量 × 温度差」を基にした簡易式での算出方法が現場では最もよく使われていますが、より正確に見積もる場合は、気象条件(外気温・湿度)を組み込んだ熱収支計算が適切です。
  • LCA(水使用量評価)に基づく算定
    –  LCAに基づく水使用量評価では、冷却塔の蒸発損失を「循環水量 × 温度差 × 蒸発係数」で推計し、さらに外気条件や運転時間を考慮して算定します。これにより、水資源消費量を定量的に把握し、環境負荷低減や効率的な設備運用の改善策に役立てることができます。
  • IoTセンサーによる運転データの収集と解析

6. 業界に求められる視点の転換

これまで冷却塔は「電力で熱を処理する装置」として語られることが多くありました。しかし今後は「水を循環利用する設備」としての再定義が重要になります。
特にビルメンテナンス業界などにとっては、水資源リスクを見据えた管理を打ち出すことで、新たな付加価値提案が可能です。水処理メーカーにとっては、薬品やブロー削減に加え「蒸発損失の最適化」という領域が事業機会の大きなポイントとなり得ます。また、空調設備業界などにとっても、省エネと節水を統合的に評価する視点が求められます。

7. 「蒸発損失」は不可避であることを前提に、削減可能性を探る

冷却塔の蒸発損失は完全にはなくせません。しかし、これまで「見えない損失」として扱われてきた水の消失を可視化し、設計・運転・管理の工夫によって最適化することは可能です。
水の利用に伴う制約が強まる時代にあって、蒸発損失を単なる不可避現象と片付けず、持続可能な設備管理の一環として捉え直すことは、企業の信頼性を高める投資でもあります。
“見えない水の損失”に目を向けること。それが、企業の信頼性と競争力を高める新しい視点となります。

年々値上げが進む水道水で冷却塔の蒸発分を補うことは合理的ではありません。一部のお客様では冷却塔薬品を使用しながら、井戸や工業用水を利用して冷却塔の補給水を補っています。

冷却塔用水の見直しはミズカラ株式会社にご相談ください。

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