水処理プラントなどで屋外に設置される事の多い薬液タンクは、外気温の影響を受けやすい設備と言えます。
夏季は高温や紫外線による劣化、気化、冬季は固化・沈殿・分離などのリスクが挙げられます。
冬は、「凍るかどうか」だけに目が行きがちですが、実務ではもう少し複雑です。
凍結していなくても、沈殿や粘度上昇で薬注が不安定になり、結果として設備トラブルや性能低下を招くことがあります。
目次
低温で起こることは、要素がいくつも重なる
薬液が水溶液の場合、基本現象として知っておきたいのが「凝固点降下」です。
溶質が溶けると、純水に比べて凍結温度が下がる(=凍りにくくなる)方向に働きます。
そのため、一般論としては濃度が高い方が凍結しにくいという見方になります。
しかし一方で、薬液には「溶解度」があります。
温度が下がると、多くの固体物質は溶解度が下がり、析出や沈殿が起こりやすくなります(例外はあります)。
さらに、薬液のタイプによっては、
塩水のように析出物が沈む場合
グリセリンやポリマー液のように粘度が上がって動かなくなる場合
消泡剤のように、有効成分を乳化している場合は乳化が壊れて油分が分離する場合
など、見え方も症状も変わります。
乳化(エマルジョン)は熱力学的に不安定で、条件変化で分離し得ること自体は一般に知られています。
つまり、低温時の薬液挙動は「凍る/凍らない」だけではなく、
凝固点・溶解度・粘度・乳化安定性などが絡み、一般化して判断すると危険です。
低温で薬液が変化する理由(凝固点降下・溶解度・粘度)
ここは強調しておきたいポイントです。
薬液ごとに、SDS(安全データシート)やメーカー資料で「保管温度」「凍結」「再溶解可否」「分離時の扱い」を確認して判断することが大切です。
SDSは、危険性・有害性や取り扱い注意だけでなく、事業者間で詳しい情報を伝えるための重要な手段として位置付けられています。
「現場の経験」よりも「データ」を優先すると、事故を減らせます。
参考:GHS対応化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供制度
SDS(安全データシート)で確認すべき保管温度と注意点
低温対策が不十分だと、例えば次のような問題が発生します。
凍結による薬液配管の破損や流出
吸込側の閉塞によるエア噛み(キャビテーション含む)
沈殿による吐出不良や詰まり(ストレーナ/ノズル)
粘度上昇によるモーター過負荷
乳化崩壊による薬効低下(効かない、ムラが出る)
「凍結していないから大丈夫」と判断すると、ここで躓きます。
凍結ではなく、析出・分離・粘度が原因で同じような現象が起きるからです。
参考:化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)|厚生労働省
低温時の異常サイン:外観・粘度・流量(圧力)で判断
低温時のトラブルは、早期に拾えれば被害が小さくなります。
現場ではまず、外観・粘度・流量(圧力)の3点を見てください。
低温時の異常サイン(点検チェックリスト)
| 点検箇所/項目 | 異常の兆候(見つけ方) | 起こり得る原因 | まず取る行動 |
|---|---|---|---|
| タンク内の外観 | 白濁、結晶、底部沈殿、層分離(上澄み/下層) | 析出・沈殿、乳化崩壊、成分分離 | 撹拌の有無確認、SDS/メーカーで再使用可否を確認 |
| 粘度 | 重い、糸を引く、流れが遅い | 低温で粘度上昇、ポリマー固化 | 温度確保、過負荷前に停止判断 |
| 吐出圧/流量 | 圧力上昇+流量低下、脈動が増える | ストレーナ/ノズル詰まり、配管内析出 | ストレーナ点検、ライン洗浄(可能なら温水循環) |
| 吸込側(サクション) | エア噛み音、液が上がらない | 吸込閉塞、粘度上昇、凍結 | 運転停止→吸込系点検、加温・解氷手順へ |
| 薬注ポンプ | 異音、過電流、発熱 | 閉塞・粘度による過負荷 | 早期停止、吐出側閉塞の切り分け |
| 配管・継手 | 亀裂、にじみ、保温材の濡れ | 凍結膨張、継手緩み | 漏えい対応、二次災害防止 |
| ヒーター/保温 | 冷たい、温度ムラ | 断線、制御不良、保温材劣化 | 通電確認、サーモ・制御盤点検 |
| 使用結果(効き) | いつも通り注入しても効かない | 分離・沈殿で有効成分が供給されない | 薬液状態確認、SDS/メーカーへ確認 |
薬品タイプ別:低温で起こりやすい現象と対策
最後に、薬品タイプごとの傾向を整理します。
ただし、ここはあくまで一般論です。最終判断はSDS/メーカー資料が優先です。
| 薬品タイプ(例) | 低温で起こりやすい事象 | 典型的なトラブル | 推奨対策(現場でやること) |
|---|---|---|---|
| 無機塩系(凝集助剤等) | 溶解度低下→析出・結晶化 | 詰まり、吐出不良 | 加温・保温、停滞部削減、ライン洗浄 |
| PAC(無機凝集剤) | 性状変化、沈殿/ゲル化(条件による) | 吐出量低下、配管閉塞 | 凍結回避、撹拌、使用前の状態確認 |
| 高分子ポリマー | 粘度上昇、固化、ダマ化 | ポンプ過負荷、供給不安定 | 温度確保、希釈は指示通り、定期循環 |
| 乳化系(消泡剤等) | 乳化崩壊→分離 | 効かない、スカム(浮上物)発生 | 低温保管回避、凍結させない、分離時はメーカー確認 |
| 次亜塩素酸ナトリウム | 性状変化・濃度変動(条件依存) | 殺菌不良、注入ムラ | 推奨温度帯で保管、外観・濃度の確認 |
| アルカリ系(例:苛性) | 濃度により析出/粘度変化 | 閉塞、薬注不良 | 保温・ヒーター、デッドレグ(滞留部)削減 |
| 酸(硫酸・塩酸等) | 材質影響・結露影響 | 漏えい、材質トラブル | 漏えい監視・材質確認・結露対策 |
| 還元剤(例:重亜硫酸Na) | 析出・劣化・臭気 | 効かない、詰まり | 遮光・密閉・保温、異臭時は使用中止 |
| 防食剤(各種) | 粘度上昇、分離、結晶化 | 注入不足→腐食進行 | 温度確保、状態確認、冬は監視強化 |
凍結防止の具体策(保温・加温・設置環境の工夫)
対策の方法としては、テープヒーターやヒーターベルト、保温材(発泡材・保温カバー)による保温が一般的です。
寒冷地では、着雪を防ぐ三角屋根を設けたり、囲いのある場所に置いて、照明を兼ねた加温を行う現場も見られます。
凍結対策で敢えて埋設にしているという現場もありますが、確かに保温にはなります。
ただし、別要因で漏れても分からず、点検性が落ちます。薬液によっては大事故につながり得るため、これはお勧めできません。
また薬液によっては、不凍液(例:エチレングリコール等)の考え方が話題になることもあります。
ただし、混合は反応性や性能劣化、法的な扱いも絡むため、自己判断での添加は避け、必ずメーカーや水処理会社に適合確認を行ってください(凝固点降下という現象自体は一般に知られています)。
冬季運用の最低限のルール(入荷・保管・使用前点検)
入荷時:品名・ロット・製造日、SDSの保管温度を確認
保管:屋外は「保温+加温+風よけ」を基本セットに
運転:低負荷期ほど滞留が増えるため、定期循環で析出を防ぐ
使用前:外観(沈殿・分離)と吐出状態(流量/圧力)を確認
異常時:凍結・分離・結晶化が疑われたら無理に回さず停止→切り分け
添加剤:自己判断で混ぜない(混合の可否はメーカー確認、または水処理会社へ相談)
薬液の取り扱いは一歩間違うと大事故につながります。
対策をご検討の場合は一度、水処理会社にご相談ください。



