『水の確保が追加! 災害拠点病院の”新要件”を解説!災害に強い医療機関を目指す』

今年7月に、災害拠点病院の要件見直しが厚生労働省より通知されました。

参照:災害拠点病院の指定要件の改正について – 厚生労働省

その背景には度重なる大規模な自然災害や、今後起こりうる大きな地震や台風によって甚大な被害が出る可能性が示唆されているという点が挙げられます。
今回は、そういった災害発生時の生命線となっている災害拠点病院の指定要件について、言及いたします。

さらに、見直しが施された”新要件”にも注目したいと思います。

災害拠点病院の指定要件

災害拠点病院のあるべき姿として、医療技術の確保はもちろんのこと、医療技術を維持するためや生命維持に必要なライフラインの確保も求められています。

日本では、近年度重なる災害によって、大規模な被害が発生しています。
その経験をもとに、これからの時代は、災害が発生しても最小限の被害で食い止めるための、工夫や努力が必要です。

そのために病院防災の対策が必要であり、災害拠点病院としての機能を発揮するための要件を見直すことは、非常に重要なのです。

新要件で重要視されたことは?

今回、既存の指定要件に加えて、新たに2つの要件が追加されることが決まり、2021年4月からはこの新要件が義務化されることが決定しています

今回見直された指定要件は、主にライフラインの確保に関するものです。

燃料の確保

災害拠点病院における燃料の確保について、新要件では、

容量要件は、現状の「通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等」を維持する

と定められています。

一方で見直し前の要件では、

常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の燃料を確保しておく

とされていました。

この微妙な表現の違い、分かりますか?

見直し前の要件と、新要件とでは、具体的にどう変わったのかというと、
変更前は”一時的でも確保ができていれば問題ないだろう”という判断のもと、要件が策定されていたのですが、
過去の災害時の経験をもとに、新要件では「一時的な確保」ではなく、「常に維持できる体制」をとる方向に見直されています。

災害時、特に都市ガスの復旧には時間を要することが多く、昨年発生した大阪北部地震の際は、復旧までに最大7日間を要しました。
ただ、ガスは短期的には代替も可能なので、自家発電設備や大型バッテリーなど、電力の確保が強く求められています。

水の確保

見直し後の水の確保について、新要件では、

・少なくとも3日分の病院機能を維持できる水の確保が望ましい

とされています。
一方、見直し前の要件は、

・適切な容量の受水槽保有、停電時にも使用可能な井戸設備の整備、優先的な給水協定の締結等により、災害時の診療に必要な水を確保する

といった内容でした。
新要件と比較すると、具体的な日数の表記がなく曖昧な表現であることが分かりますね。

ちなみに、透析治療の際必要とされる診療用水は、1人あたり100~200ℓとされています。
その他の治療でも水が必要なことは少なくないでしょう。

また、電気・ガス・水の中で、止まると最も治療に支障をきたすものは、「水」だとも言われています。
災害がなければ起こらなかったと考えられる経過で亡くなられることを「災害関連死」と言いますが、
阪神・淡路大震災の翌年には、透析患者の死亡数が約30%増加したことが報告されています。

参照:一般社団法人 日本透析医学会東 『透析をうけている患者さんへ~大災害時に備えて(まとめ)

飲料水だけでなく、診療用水の確保がいかに重要か、痛感しますね。

水を中心としたコストダウンと省力化と防災対策

新要件で求められているのは「自活能力」

以前、”災害拠点病院”とは?病院の防災・減災対策の一層の強化が求められる”の記事でもご紹介した通り、
現行の災害拠点病院の指定要件は主に、緊急対応が可能かどうかや、被災時を想定した訓練を実施しているかなどの医療技術の維持が定められていました。

新要件により厳格化された点は、「病院の自活能力の強化」です。

2019年9月に発生した台風15号の影響で、千葉県で停電が続き、印西市の病院に入院していた患者が亡くなるというニュースがありました。

こちらの病院は災害拠点病院ではなく、また停電との因果関係は不明とのことですが、断水により十分な治療が困難であった様子が想像できます。

災害時に医療の拠点となる災害拠点病院における緊急時のライフラインの確保と維持は、
治療が必要な患者にとって、まさに生命線なのです。

これから先の時代、日本では自然災害の発生は避けては通れません。
災害が発生した際に国民が頼れるのは紛れもなく医療技術を持ちそして、ライフラインの確保が可能である施設に他なりません。

指定要件にライフラインの確保が追加されたから自家設備を導入しなければならない。
といった次元の話ではなく、被災時の国民の生きる支えになる存在であるのが医療機関です。

そして、そのためには自家設備を備え、緊急時でもライフラインを確保できる医療機関であることこそが国民から求められる医療機関のあるべき姿なのでしょう。

新要件の「3日分の水の確保」を満たすためには?

新要件にも具体的に記載されていますが、3日分の水を確保するためには、

  • 適切な容量の受水槽保有
  • 停電時にも使用可能な井戸設備の整備
  • 優先的な給水協定の締結等

といった方法があります。

受水槽の設置

地下水による給水設備

地下水による給水設備

災害拠点病院ではありませんが、実際に防災対策として井戸とろ過装置、さらにLPガス非常用発電機を導入された病院様の事例を、こちらで解説しております。

オンサイト方式での導入のメリットなども公開しておりますので、是非ご一読くださいね。


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