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水槽と薬液タンクの違い
「水槽」と言えば、水を貯めるものを思い浮かべる人が多いと思います。
建物の屋上にある高架水槽や、クリーム色のFRP製、最近ではステンレス製の受水槽など、清潔感のある水槽をよく見かけます。
一方、水処理の現場では「薬液タンク」と呼ばれる設備が数多く使われています。
見た目は水槽と似ていますが、用途も構造も異なります。薬液タンクはその名の通り、薬液を安全に貯蔵・供給するための設備です。
中に入る薬品によって、材質や設置場所、取り扱い方法が大きく変わる点が特徴です。
塩素剤タンク ― 材質選定が命
飲料水処理で使われる塩素剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)は強い酸化力を持ち、鉄製タンクでは錆びや腐食を起こします。
そのため、塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)製タンクが一般的に使われます。
しかし、薬品の性質を理解せずに不適切な材質を使用すると、タンクの底が抜けたり、配管が破損したりすることがあります。
特に次亜塩素酸は金属を腐食させるため、ステンレスでも長期使用は危険です。
| 材質 | 使用可否 | 主な用途 |
| 鉄・ステンレス | × | 腐食・漏えいの危険 |
| PVC・PE(ポリエチレン) | ◎ | 塩素剤・酸系薬品 |
| FRP(強化プラスチック) | ○ | 酸・アルカリ両対応可 |
次亜塩素酸の分解と塩素酸のリスク
次亜塩素酸ナトリウムは時間の経過とともに分解し、塩素酸(ClO₃⁻)という副生成物を生じます。
この塩素酸は水道法で「有害物質」として規制されており、消毒のつもりが逆に水質基準違反になることもあります。
分解は温度が高いほど加速し、特に夏場は注意が必要です。
屋外保管では直射日光でタンク内が40℃を超えることもあり、わずか数日で有効塩素濃度が半減する例もあります。
そのため、次亜塩素酸を扱うタンクは以下の点を徹底する必要があります。
| 対策項目 | 内容 |
| 保管温度 | 20℃以下を維持(空調室または日陰) |
| 設置環境 | 屋内が理想。屋外は断熱・遮光・クーラー併設 |
| 品質選定 | 高純度グレード(塩素酸含有の少ない製品)を選ぶ |
| 使用期間 | 納入後7日以内に使い切る(特に夏季) |
参考:団法人 日本水道協会 平成19年度厚生労働省受託「水道用薬品等基準に関する調査」 水道用次亜塩素酸ナトリウムの 取扱い等の手引き(Q&A)
ガス発生型薬品 ― 換気と密閉構造が必須
塩酸などの酸性薬液は、補充の際にガスが噴出して強烈な刺激臭を放つことがあります。
このガスを吸い込むと粘膜の炎症や呼吸障害を引き起こすため、換気設備と封じ込め構造が欠かせません。
その代表的な仕組みが「ガスシールポット」です。
タンク上部の配管を通してガスを一度水に触れさせることで、空気中への拡散と臭気漏れを防ぐ装置です。
| 対策項目 | 内容 |
| 換気 | 屋内設置時は局所排気装置を設ける |
| シール装置 | ガスシールポットを必ず設置 |
| 補充方法 | 補充前に換気を確認、静かに注入 |
| 作業環境 | 有害ガス検知器を常備 |
可燃性薬品 ― 火災・爆発の危険
排水処理や脱脂工程では、エタノールなど可燃性薬品を使用することがあります。
これらは消防法上の危険物に該当する場合もあり、保管量や設置場所に制限があります。
ただし、少量であっても可燃性ガスが溜まる密閉空間では爆発の恐れがあります。
火花を出す電動機やスイッチは厳禁で、防爆仕様機器を採用する必要があります。
| 対策項目 | 内容 |
| 電気設備 | 防爆モーター・防爆照明を使用 |
| 保管環境 | 換気・遮光・密閉を徹底 |
| 周辺管理 | 可燃物を置かない、静電気対策を行う |
| 消防法 | 危険物区分に応じた設置基準を遵守 |
補充・作業時のリスク
薬液タンクは、人が薬品を手作業で補充する小型タイプから、ローリー車で補給する大型タイプまで様々です。
どちらにも異なるリスクがあります。
| 作業形態 | 想定リスク | 対策 |
| 手作業補充 | 薬液の跳ねによる皮膚・眼の損傷 | 保護メガネ・手袋・エプロンの着用 |
| ローリー補給 | ホース外れ・バルブ誤操作による流出 | 接続確認、立ち会いの複数人対応 |
| タンク上作業 | 老朽タンクの踏み抜き・転落 | 足場・安全帯の使用、老朽タンク立入禁止 |
| 混合誤投入 | 酸と塩素剤混合で塩素ガス発生 | 投入ラインの明示、薬品識別ラベル徹底 |
混ぜるな危険 ― 化学反応事故の実例
水処理現場で最も危険な誤操作が、「混ぜるな危険」と呼ばれる化学反応事故です。
塩素剤と酸性凝集剤を誤って混合すると、猛毒の塩素ガスが発生します。
実際、厚生労働省の労働災害統計でも、化学薬品による中毒・火災・爆発は毎年報告されています。
老朽タンクの破損による転落・感電事故も起きており、軽視できません。
参考:職場のあんぜんサイト 労働災害統計
https://share.google/lZbV3U1fL
https://share.google/T9BheaOu2
安全確保のための運用と教育
薬液タンクは見た目こそ水槽と似ていますが、中に入るものの危険性は桁違いです。
現場では次のような管理・教育が求められます。
| 管理項目 | 実施内容 |
| 保管環境 | 温度・遮光・防爆・換気の整備 |
| 定期点検 | タンクのひび割れ・変形・漏れを確認 |
| 保護具 | メガネ・手袋・防毒マスクの常時着用 |
| 表示・ラベル | 成分名と危険表示を明確化 |
| 作業教育 | 混合禁止・補充手順・緊急時対応を共有 |
| 緊急対応 | 洗眼設備・中和剤・緊急連絡体制を整備 |
現場で守るべき管理と安全の要点
薬液タンクは、ただの「容器」ではありません。
保管方法を誤ると、水質汚染・火災・中毒・感電・死亡事故につながるおそれがあります。
- 薬品は温度・光・時間で劣化します。
→ 数値で管理し、7日以内に使用することを徹底しましょう。 - 混合・誤投入・老朽タンク使用は厳禁です。
→ 明確なラベルと教育が事故を防ぎます。 - 点検・記録・教育を継続的に行うことが安全管理の基本です。
工場や施設で薬液タンクの更新や修理を任された方は、まず専門の水処理会社にご相談いただくと安心です。
現場ごとのリスクや最適な対策を一緒に検討することで、安全で持続可能な運用が可能になります。



