目次
1. インフラの老朽化が避けられない課題に
日本では高度成長期に一斉に整備された上下水道や工場用水・排水設備が、40年以上の稼働を経て老朽化のピークを迎えつつあります。
水処理設備は常に稼働し続けている設備であり、配管・ポンプ・電気制御・薬注設備など、多くの設備が同時に劣化します。
しかし、設備の劣化は外から見ただけでは分かりにくく、問題が大きくなるまで放置されがちです。
その結果、以下のようなトラブルが増加しています。
- 配管腐食による漏えい
- ポンプ停止による水質不良
- 電気系統の誤作動
- タンク破損による薬品流出
- センサーの誤検知による処理不良
水処理設備は工場や病院、商業施設といった「施設の生命線」です。
アップグレード(更新)をどのように計画するかは、工場運営・安全・コストのすべてに関わる重要なテーマの1つと言えます。
2. 老朽化が招くリスク ― 実際に何が起きているのか
物理的な劣化
水処理設備は薬剤や湿気にさらされ続けるため、金属腐食やプラスチック劣化が進みやすい環境にあります。
- 配管のサビ・腐食・ピンホール
- タンクの亀裂、底抜け事故
- 老朽ポンプの振動・停止
特にタンクの劣化は、重大な事故につながる可能性があります。
厚生労働省の労働災害資料によると、経年劣化した薬液タンクの上部が破損し、作業者が内部に転落して死亡した事例が確認されています。
参考:厚生労働省│塩酸タンクに関する過去の労働災害の事例と対策
処理能力の低下
設備の劣化は「徐々に水質が安定しなくなる」という形で現れます。
- BOD(微生物が有機物を分解するのに必要な酸素の量)・COD(化学薬品で酸化分解される有機物の量)の処理能力低下
- ばっ気不足(水処理槽に供給される酸素量が不足し、微生物が十分に活動できない状態)
- 薬液注入の不安定化
- センサーの経年劣化による誤作動
記事に入れる場合の書き方(差し替え文例)
この状態を放置すると、処理水の基準や排水基準等の超過が発生し、自治体による改善指導(行政指導)の対象となる可能性があります。実際に、基準超過後に改善指導が行われた事例が自治体資料として公表されています。
コストの増大
老朽設備を使い続けると、結果的に「維持費」が膨らみます。
| 原因 | 状況 |
| 応急修理が増える | 月に数回トラブルが発生 |
| 電気代が上昇 | 劣化したモーターやブロワの効率低下 |
| 薬品消費量が増える | 注入ムラや制御不良 |
| 清掃・点検が増える | 作業負荷増大 |
多くの工場で「新設より維持費が高い」状態になりつつあります。
3. 更新すべきサイン ― 設備が発する危険信号
以下のチェック項目のうち、ひとつでも該当すれば、更新検討のタイミングです。
- ポンプやブロワが月1回以上停止する
- 配管の外側にサビが見える
- タンクが変色・変形している
- 制御盤が10年以上更新されていない
- 回転機器から異音がする
- 水質値が安定しない
- 図面や設備仕様書が古くて不明点が多い
- 担当者に依存しておりブラックボックス化している
早期発見は、費用を最小限に抑える大きなポイントです。
4. アップグレードの考え方
フル更新(全面更新)と部分更新(レトロフィット)
設備更新は大きく「フル更新(全面更新)」と「部分更新(レトロフィット)」に分かれます。
現場ではこの2つを組み合わせて最適化することが多いです。
| 項目 | フル更新(全面更新) | 部分更新(レトロフィット) |
|---|---|---|
| 何をする? | 設備全体を新しいシステムへ置き換えます | 悪いところ・効きが悪いところだけ更新します |
| 具体例(イメージ) | ・水処理設備一式を更新 ・制御方式を刷新し、自動制御まで入れる ・配管もタンクも機器もまとめて更新 | ・ポンプだけ交換 ・ブロワだけ高効率に交換 ・制御盤をIoT対応へ更新 ・薬液タンクをFRPへ更新 ・腐食した配管だけ更新 |
| 得られる効果 | ・安定稼働 ・省エネ ・保守性改善をまとめて狙えます | 低コストで「困っている部分」から改善できます |
| メリット | ・長期安定(トラブル全体を抑えやすい) ・省エネ ・自動化を大きく進めやすい ・保守が楽になり、属人化を減らせる | ・費用を抑えやすい ・停止期間が短い/止めずにできる場合もある ・優先順位を付けて段階的に改善できる |
| デメリット | ・初期費用が高い ・停止期間が必要になりやすい | ・古い部分が残るためトラブルが完全に消えないことがある ・全体最適(省エネや自動化)が限定的になる場合がある |
| 向いている現場 | ・設備が全体的に古い(20年以上) ・故障が連鎖している ・水質基準や処理量の要求が上がった ・将来も長く使う前提 | ・課題が「特定の機器」に集中している ・停止できない/予算が限られる ・まず故障リスクを下げたい ・段階更新を前提にしたい |
フル更新を検討したいケース
- ポンプ、ブロワ、配管、制御盤が次々に不調で、毎月のように応急修理している
- 制御盤が古く、センサーも不安定で運転が人の勘に頼っている
- 排水基準が厳しくなり、今の方式では余裕がない
- これから10年以上この工場を使う前提で、更新を一度で片付けたい
4-3. 部分更新で効果が出やすいケース
- ブロワだけ古く電気代が高いので、更新して省エネしたい
- 薬注ポンプの故障が多く、まず薬注だけ安定化したい
- 配管の一部だけ腐食が進んでおり、漏えい対策を先にやりたい
- 生産が止められず、休日や夜間で少しずつ更新したい
フル更新は「設備全体の安定化と将来の手間削減」を狙う方法で、部分更新は「止めずに、困っている所から改善する」方法です。
現場の様々な制約(停止可否・予算・リスク)に合わせて組み合わせるのが現実的です。
5. 最新技術で高効率化 ― アップグレードの選択肢
省エネ・高効率モーター
- IE3/IE4相当の高効率モーター
- ターボブロワ
- インバーター制御で電力30〜40%削減例もあり
IoT・遠隔監視
- 水質データのクラウド管理
- 薬品残量の自動通知
- 異常値のアラート
- 人手不足でも安定運用できるメリットが大きい
自動制御型薬注システム
- 水質値に応じて薬品量を自動調整
- 薬品の無駄を削減
- 塩素酸の抑制や処理安定化に効果
配管・タンクの耐薬品化
- FRP・PVC・HDPEなど薬品に強い材質へ更新
- 老朽タンクの破損・薬液漏れ防止
- 防液堤化や二重配管も有効
6. 更新コストの考え方 ― 「費用対効果」を見える化する
設備投資は金額だけでなく、「回収できる効果」を見て判断する必要があります。
回収要素の例
- 電力削減
- 薬品使用量の削減
- 故障対応コストの削減
- 人件費(巡回・点検・補充作業)の削減
- 水質安定化による操業リスク軽減
10年スパンで見ると、更新した方が総費用が抑えられるケースは非常に多いです。
7. 設備更新を成功させるための進め方
- 現状調査(設備診断)を行う
- 故障リスク・安全リスクを優先度で分類
- 部分更新と全面更新のシミュレーション
- 補助金制度の確認(省エネ関連が狙い目)
- 施工しやすい順に段階的アップグレード
- 信頼できる水処理会社と協働し、将来を見据えて設計
8. おわりに ― 老朽化設備は「待つほど高くつく」
水処理設備の老朽化は、放置すればするほど事故・故障・コスト増を招きます。
特に薬液タンクや配管、制御盤は、劣化が大きな事故につながりやすい部分です。
「まだ動いているから大丈夫」という判断が、
気づいた時には大規模更新や行政指導につながるケースもあります。
設備は壊れる前に手を入れた方が、
安全性・コスト・運用安定性のすべてが向上します。
工場や施設で水処理設備の不調や老朽化を感じたときは、
ぜひ信頼できる水処理会社に相談し、最適な更新方法を一緒に検討していきましょう。



