日常の中で「この水、においが気になる」と感じたことはありませんか?
実はこの“におい”こそが、水に関する品質管理で最もセンシティブかつ重要な要素の一つです。

水の「におい」は、消費者にとっては不快の元凶となりますが、その水を提供している企業や水道事業者にとっては品質への信頼に直結するまさにリスクファクターです。特に食品・飲料業界、インフラ事業者にとっては見逃せない課題の1つでしょう。

この記事では、カビ臭の正体その対策、そして水をビジネスとして扱う現場での品質管理の実情について、わかりやすく解説していきます。

水のにおいの原因とその構造

🟦 カビ臭の主因:ジェオスミン/2-MIBとは?

「水がカビ臭い」と言われることがありますが、この表現には少し誤解があります。実際には、あの不快なにおいの原因は、ジェオスミン(Geosmin)2-メチルイソボルネオール(2-MIB)という物質によるものです。「カビ」由来ではなく微生物由来であり、人体には無害です。つまり、仮に飲んでしまっても健康を損なうことはありません。
とはいえ、においとして感じてしまうと、どれだけ安全であっても「不快」なのは事実。特に飲み水である以上、においの存在は受け入れがたいものです。

成分名発生源特徴健康への影響
ジェオスミン(Geosmin)藻類、放線菌など土臭・カビ臭無害
2-MIB(2-メチルイソボルネオール)藻類、バクテリア等カビ臭無害

これらの物質は極めて微量(3~5ng/L)であっても不快なにおいとして認識されるため、におい対策としては非常に厄介です。

なぜ“無害なにおい”が問題になるのか?

企業や行政が提供するサービスの信頼性は、「安心・安全」に加え「快適さ」も重視される時代です。消費者が「まずい」「におう」と感じた瞬間、それは単なる感覚の問題ではなく、下記のようにサービス価値の低下、そしてそれは顧客離れの要因となります。

✅ 飲料・食品製造での風味劣化
✅ 生活用水へのクレーム対応コスト
✅ ブランドイメージの毀損
✅ 海外輸出や外資基準との齟齬

このように「無害だから問題ない」とは言えず、においの管理=品質管理の一部として極めて重要な項目と言えます。

水道水の「におい」対策の技術一覧

🟩 主な除去技術と特徴比較

技術概要コスト感メンテナンス性効果
活性炭処理におい物質を吸着活性炭の交換が必要
微生物濾過微生物による分解定期的なメンテナンスが必要
オゾン処理酸化力で分解装置維持が必要◎◎
紫外線処理主に殺菌目的(におい対策には弱い)簡易

※実際の浄水処理では、これらを複合的に組み合わせて使用するのが一般的です。

【ケーススタディ】東京都水道局の取り組み

東京都水道局では、におい対策として以下の2つの高度処理技術を導入しています。

  • 生物活性炭ろ過
  • オゾン処理

これらの技術により、ジェオスミンや2-MIBといったにおい物質を徹底的に除去。住民に「おいしい水」を提供しています。東京都の公式サイトからも、安全かつおいしい水という価値をもっと広めたいという意気込みが感じられますね。

▶ 詳細は公式サイトを参照
東京都水道局:高度浄水処理


このような設備投資はコストがかかる一方で、市民(利用者)の満足度・安全性向上という“公共価値”に直結しています。

なお、余談ではなりますが、かつて「水道水=おいしくない」と思われていた時代もありました。
しかし現在、日本の水道水は世界的に見ても高品質で、特に都市部では高度浄水処理により、においのないクリーンな水が安定して供給されています。

私たちが蛇口をひねれば当然のように出てくる水。
その背後では、水道局の職員、浄水場の技術者、飲料メーカーの品質管理担当者など、数多くのプロフェッショナルが日々の努力を重ねているのです。

飲料メーカーの水品質管理フロー(例)

🟦 品質管理の流れ

飲料工場など製造現場では、基準値を満たすだけでなく、品質管理部門にて「人の感覚による「官能検査」が必ず行われます。

  原水の選定 –> 前処理(ろ過など) –> 臭気測定 –> 官能検査 –> 製品化

✅ 製品の“風味”に最も影響するのは、においや舌触りなどの感覚的要素。
✅ 品質管理部門による「においチェック」は、製品ブランドの維持に不可欠。

つまり「水=ただの素材」ではなく、製品のコアに直結する戦略的資産として扱われているんですね。
機械による検査だけでなく、人の感覚で最終的な品質を確認しているという点に、飲料メーカーの本気度が表れています。
飲料メーカーが「水」1つをとっても並々ならぬこだわりを見せるのも納得ですね。

気づかれにくいけれど大切――水のにおいと企業イメージ

水のにおいに関する問題は、単に味の話にとどまりません。
それは、消費者体験・企業イメージやブランディング・顧客への信頼や責任といった「無形価値」を左右する要素とも言えるためです。

例えば、以下のような業種においては、においのない水を保つことが製品やサービスの印象を大きく左右します

✅飲料・食品製造業(品質と風味が命)
✅医薬品・化粧品工場(水の純度が基準)
✅外食チェーン(味と顧客満足度)
✅観光・宿泊施設(快適性の提供)

においにも向き合う姿勢が、水の価値を高めていく

水のにおいは、たとえ実際の健康被害はなかったとしても、消費者体験や企業イメージ、提供するサービスの印象に非常に大きな影響を与えます。
水の品質は、単なる“安全性”だけでなく、“快適性”まで含めて評価されるようになってきているのです。
だからこそ、企業や自治体は、安全性だけでなく「快適性」や「印象の良さ」まで含めた水の品質管理に取り組んでいます。

水のにおいにきちんと向き合う姿勢は、企業の誠実さや品質へのこだわりを物語るもの。
目には見えにくい「におい」だからこそ、気づく力・守る力が問われているのかもしれません。

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