日本では、生活用から産業用まで、用途に応じて多様な水が利用されています。
その中でも、人が飲むための「水道水」と、産業活動を支える「工業用水」は、目的や処理方法、水質基準が大きく異なります。
普段は意識することの少ない両者の違いですが、コストやエネルギー利用、水資源の有効活用を考えるうえで非常に重要なテーマです。
本記事では、工業用水と水道水の違いを用途・水質・コストの観点から比較し、どのように使い分けられているのかを解説します。
目次
工業用水と水道水の基本的な違い
「水道水」は、私たちの家庭で使う飲料水や生活用水のことです。
「工業用水」は、工場やプラントなどの産業活動で使用される水を指します。
主な違いを表にまとめると、次のとおりです。
| 項目 | 水道水 | 工業用水 |
| 主な用途 | 飲料・生活用(調理・洗濯・清掃など) | 冷却・洗浄・製造・希釈などの工業用途 |
| 水源 | 河川水・ダム・地下水 | 河川水・地下水・下水再生水など |
| 処理方法 | 沈殿 → ろ過 → 塩素消毒など、衛生的処理 | ろ過・沈殿などの簡易処理(殺菌は目的による) |
| 法的基準 | 水道法(51項目の水質基準) | 工業用水法、水質管理基準(自治体ごとに異なる) |
| 飲用の可否 | 可(飲料適合) | 不可(飲料基準を満たさない) |
| コスト(地域差あり) | 一例として約200〜400円/㎥ | 一例として約50〜100円/㎥ |
※参考:水質基準項目と基準値(51項目) | 水質基準項目と基準値(51項目) | 環境省
工業用水は、飲用を目的としないため、水質基準が緩やかで処理工程が少ないことが特徴です。
その分、設備コストや薬品使用量を抑えられ、結果的に料金が大幅に安くなっています。
工業用水はなぜ安いのか?
水道水は「人が飲むこと」を前提にしているため、細菌や化学物質を厳しく管理する必要があります。
全国一律で水道法に基づく51項目の水質基準を満たすように処理され、塩素消毒や高度浄水処理が行われます。
一方、工業用水は「機械や製造工程に使うこと」が目的です。
そのため、飲料基準に相当する処理を省略できることが最大のコスト削減要因です。
また、工業用水はしばしば再生水(下水処理水)や地下水を利用しており、浄水場を経由しないケースもあります。
水源の確保や処理コストを抑えることで、地域差こそあるものの水道水の4分の1〜5分の1程度の料金で供給されています。
工業用水は飲めるのか?
結論から言うと、工業用水はそのままでは飲めません。
工業用水道事業法では「工業の用に供する水」と定義されており、水道法の飲料水基準(51項目)を満たす必要はないためです。
ただし、地域によっては 「飲用に適さない」「飲料用として供給するものではない」 といった表現にとどまっており、
全国共通で「飲用完全禁止」と明文化した統一基準があるわけではありません。
これは一切『飲めない』という意味ではなく、多くの工業用水は沈殿やろ過などの基本的な処理が行われています。
一方で、微生物・有機物・濁度などの含有量が安定しないことがあり、そのままで飲料用途に対する安全性は保証されません。
そのため、食品工場や医薬品製造など、飲用・衛生用途が求められる分野では、必ず水処理設備や水処理装置を通した水が使用されます。
※工業用水の飲料化実績
用途別に見る「工業用水」と「水道水」の使い分け
| 分野 | 主に使用される水 | 理由 |
| 一般家庭 | 水道水 | 飲料・調理に使用するため衛生基準が必要 |
| 食品・医薬品工場 | 水道水(または純水) | 高純度・無菌性が求められるため |
| 自動車・金属加工業 | 工業用水 | 冷却・洗浄用で大量に必要。コストを重視 |
| 化学・製紙・鉄鋼業 | 工業用水+再生水 | 循環利用によりコスト・環境負荷を低減 |
| 冷却塔・空調設備 | 工業用水+薬品処理水 | スケール・スライム対策を施した処理水を使用 |
このように、飲用・衛生目的なら水道水、冷却や洗浄などの工業プロセスなら工業用水が選ばれるのが一般的です。
また、近年は水不足対策として、再生水や雨水の活用も広がっています。
工業用水の水質管理と水処理の重要性
工業用水は飲料基準を満たす処理をしていないため、使用目的によっては水処理装置の設置が必要となります。
例えば、冷却水系では水中のカルシウムや鉄分がスケールとして付着し、熱交換効率を低下させます。
また、バクテリアや藻類の繁殖によるスライム汚れは、配管詰まりや腐食の原因になります。
食品工場で使用する場合には、より高度な水処理装置が必要です。そのため、多くの工場では、以下のような水処理工程を組み合わせて安定した品質を確保しています。
- スケール防止:薬品注入による析出抑制
- スライム抑制:殺菌剤や分散剤の使用
- 防食管理:pH・導電率の制御
- 再生利用:除濁ろ過装置・UF膜・RO膜・イオン交換樹脂による純水化
これらの水処理は単に品質維持のためだけでなく、設備の省エネルギー化・長寿命化にもつながります。
コストと環境の両立 ― 水処理が果たす役割
工業用水を適切に管理することは、コスト削減と環境保全の両立に直結します。
たとえば、再生水や冷却水を再利用することで、
- 水道水の使用量削減
- 下水排出量の抑制
- エネルギー使用量の削減
といった効果が得られます。
特に最近では、工場だけでなくオフィスビル・商業施設でも、冷却塔や空調設備の水処理を最適化して省エネを実現する事例が増えています。
「水処理=環境負荷低減」という考え方が、今後ますます重要になるでしょう。
工業用水と水道水の“違い”から見える未来
水道水と工業用水は、目的も水質も異なりますが、どちらも社会インフラを支える重要な資源です。
特に工業用水は、再利用や再生処理を通じて、これからの循環型社会の基盤になると期待されています。
水処理技術の進歩により、工業用水を高品質化して再利用する「スマートウォーターシステム」も登場しています。
飲めるレベルの再生水(例:シンガポールのNEWater)のように、“限りある水を使い切る技術”が日本でも広がりつつあります。
今後は、水道水・工業用水という区別を超えて、
「水をどう使い、どう循環させるか」
が産業界における重要テーマとなるでしょう。
まとめ:用途に応じて“最適な水”を選ぶことが重要
- 水道水:飲料・生活用途向け。衛生重視、コスト高。
- 工業用水:産業用途向け。処理簡易、コスト低(地域差あり)。
- 違いの本質は「目的」と「必要な水質レベル」にあります。
水をどう選び、どう管理するかが、企業のコストと環境負荷を左右します。
そして、その最適化を支えるのが水処理技術です。
もし工業用水の活用を検討されているのであれば、飲料水処理の実績があるミズカラ株式会社にご相談ください。
水は単なる資源ではなく、エネルギーと環境をつなぐインフラなのです。


