排水処理は「設計通り」にはいかない

水処理の中でも、特に難易度が高いのが工場排水処理です。

上水処理は原水水質が比較的安定していますが、工場排水はそうはいきません。
多品目を製造する工場では、製造工程ごとに水質が異なり、日々原水が変動します。

そもそも水処理設備は、想定された原水水質に基づいて設計されます。
どんな水でも処理できる万能設備は存在しません。

しかし排水処理では、原水が刻々と変化することが“宿命”です。
これが、排水処理が不安定になりやすい最大の理由です。

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排水処理が不安定になる主な原因

1. 原水水質の急変

例えば塗料工場では、赤系と黒系では使用する顔料や溶剤が異なります。
それらが混在して排水処理設備へ流入します。

食品工場でも、

  • 高脂質製品の日
  • 高糖質製品の日
  • 洗浄工程が多い日

で水質が大きく変動します。

環境省が示す水質汚濁防止法の排水基準では、BOD・COD・SSなどの基準が定められており、これを超過すれば行政指導や改善命令の対象となります。
(参考:環境省|水質汚濁防止法の概要

原水変動が激しいと、この基準を安定して守ることが難しくなります。

2. 活性汚泥の「健康状態」と処理の安定性

食品工場などで広く採用されている活性汚泥法は、微生物(細菌群)が有機物を分解することで水を浄化する生物処理方式です。

その処理性能は、温度や溶存酸素(DO)、pH、負荷変動に影響されるという前提のもとに設計・運用されます。
国土交通省の下水道技術ガイドラインでも、生物処理設備の設計・運用条件は総合的な管理指針として示されています。
参考:国土交通省「上下水道:ガイドライン・マニュアル等」

① 水温の影響

生物反応速度は水温に依存し、低水温時には有機物分解速度が低下します。
急に寒くなると、微生物の代謝活動が低下し、BOD除去率が悪化することがあります。

② 溶存酸素(DO)の影響

活性汚泥法は好気性微生物による処理方式であり、十分な溶存酸素の確保が不可欠です。
日本下水道協会の設計指針では、ばっ気槽内のDO管理が処理安定の重要条件とされています。

DOが不足すると、

  • 有機物分解能力の低下
  • 嫌気化による悪臭
  • 汚泥性状の悪化

につながります。

③ pHの影響

生物処理におけるpH管理は重要です。
微生物の多くは中性域(おおよそpH6〜8)で最も安定して活動します。

原水のpHが急変すると、微生物群集にダメージを与え、処理能力が一時的に低下することがあります。

④ 有機物負荷(F/M比)の影響

活性汚泥法の設計において有機物負荷(F/M比)や負荷変動への配慮が重要であるとされています。

急激に有機物負荷が増加すると、微生物量が追いつかず、

  • 汚泥の沈降不良(バルキング)
  • 汚泥の流出
  • 放流水のBOD悪化

といったトラブルにつながることが、下水処理場の運転事例として報告されています。

3. 現象の整理

つまり、活性汚泥の処理能力は「一定」ではなく、運転環境に大きく左右されます。
急激な水温変化や負荷増加は、微生物にとって大きなストレスとなり、処理性能の不安定化を招きます。

これは人間に例えれば、

  • 急な気温変化で体調を崩す
  • 暴飲暴食で消化が追いつかなくなる

ようなものです。

参考:横浜市下水処理場 運転条件解析(『汚泥解体を引き起こす運転条件の解析』)

4. 酸素不足(ばっ気不足)

活性汚泥法では酸素が不可欠です。
環境省の資料でも、生物処理において溶存酸素の維持が重要とされています。

ブロワの劣化や散気管の目詰まりにより酸素供給が不足すると、微生物は十分に働けません。

その結果、

  • BOD低減率が悪化
  • 臭気発生
  • 処理水の不安定化

が起こります。

5. pH・薬品注入の変動

凝集沈殿や中和処理では、pH管理が重要です。
水質汚濁防止法でもpH基準が定められています。

原水が急変すると、

  • 薬品注入量が追いつかない
  • 凝集不良
  • フロック形成不良

といった問題が起こります。

不安定化を防ぐ現場の取り組み

現場では以下のような対策が取られています。

1. 処理実験の実施

ジャーテストなどで、

  • 薬剤の種類
  • 投入量
  • 反応時間

を都度確認します。

2. 連続監視

  • pH
  • DO
  • ORP
  • 汚泥濃度(MLSS)

を常時監視します。

3. 汚泥沈降剤の活用

活性汚泥の沈降不良時には、汚泥沈降剤を使用する場合もあります。
これは応急的な安定化手段の一つです。

ただし、これはあくまで対症療法であり、根本原因の解決が重要です。

突発的トラブルが起きる理由

排水処理が最も不安定になるのは、

  • 生産設備のトラブルによる異常排水
  • 急な増産による有機物負荷の急上昇
  • 洗浄工程の集中による高濃度排水の一括流入

といった突発的な事象が発生したときです。
例えば、生産ラインの切替えや不良品の大量洗浄が重なると、通常運転では想定していない濃度や水量の排水が短時間に流入します。
排水処理設備は、ある程度の変動を吸収できるよう設計されていますが、設計値を大きく超える急変には対応しきれません。

活性汚泥法であれば、微生物が増殖して処理能力を高めるまでには時間がかかります。
このように排水処理設備は「時間をかければ立て直せる」ことが多いですが、放流水は待ってくれません。
短時間の負荷急変が、基準超過や操業停止リスクに直結する点が、排水処理の難しさです。

その結果、

  • DOが急低下する
  • 汚泥フロックが崩れる
  • 沈殿槽で汚泥が流出する

といった現象が連鎖的に起こります。
これらは水処理管理者の調整努力だけでは、物理的に吸収しきれない場合があります。

実は「組織構造」が原因になることも

これまで、生産部門と水処理管理者は分断されがちでした。

しかし、

  • 濃厚排水を一気に流す
  • 高濃度排水を事前連絡なく排出する

といった行為が、排水処理の不安定化を招きます。

こういった例の対策としては、

  • 高濃度排水の分離貯留
  • 均等化槽の活用
  • 段階的放流

が有効です。

これらは、環境省や各自治体の工場排水管理指導でも推奨されています。

ベテラン技術者の高齢化という課題

近年、排水処理管理者の高齢化が進んでいます。

実は水処理というのは、経験値に依存する部分が大きく、マニュアル化が難しい分野です。

しかし、今後は

  • データの蓄積
  • IoT監視
  • 外部専門家との連携

によって、属人化を減らす取り組みが、より一層求められます。

排水処理を安定させるために必要なこと

排水処理は、水処理担当者だけの問題ではありません。

組織全体で、

  • 原水変動を抑える
  • 情報共有を徹底する
  • 事前にリスクを共有する

という体制づくりが重要です。

これは現場レベルでは難しく、工場長や経営層が主体的に取り組むべき課題です。

排水処理の安定化は「組織力」

排水処理の不安定化は、

  • 原水変動
  • 活性汚泥の不調
  • 酸素不足
  • 薬品管理不良

など複数要因が重なって起きます。

放置すれば、排水基準超過による行政指導や操業リスクにつながります。

排水処理を安定させるためには、

  • 技術的な対策
  • 組織的な対策
  • 経営層の理解
  • プロである水処理会社との連携

が不可欠です。

水処理会社は、現場の苦労を熟知しています。

ぜひ、技術部門だけでなく経営幹部の方々にも排水処理に目を向けていただき、
水処理のプロである私たちを積極的に活用していただきたいと思います。

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